黒夏杉の斧鉞を知らず火を知らず 蟻の列黒のベンツを出て西へ 根底に蝉のこゑあり青銅忌 放屁して寝間の薮蚊を驚かす 列島の縁舐めて夜の野分過ぐ ぢりぢりと峰を押しやる青田かな 2014.08.10 06:40
棄信濃路のひばりは空に溶けやすし 故人また少し若やぐ弥生かな 草青む客なきバスの過ぎて昼 放棄地の横も放棄地いぬふぐり 卒業の子らを見てゐる鬼瓦 春風を呼び常滑は哀しき町 2014.04.09 09:15
谷雨さつと泡立草の岸を過ぐ 秋霖の日がな古塔を閉ぢ込めぬ 美濃も奥落葉松枯れてみな枯るる 冬深むまして谷這ふ単線は 唇を切つて血が出て十二月 冬の京へうつつの町をひとり発つ 2013.12.08 00:14
紅曼珠沙華土中より紅絞り出す 稔り田の風を夜明けの匂ひとす 後生まだ視野にあらざり新酒酌む 蓑虫も乗せしかノアの方舟は 流星の落ちゆく先の空木岳 どこまでも空どこまでも草紅葉 2013.11.08 00:09
仏秋しぐれ他所語ばかりの軽井沢 木曽越えの雲つぎつぎと蛇笏の忌 金色の仏具仏壇秋簾 職退きし身なれば古酒を酌むばかり 傘立の傘の長短秋澄めり 自死ありぬ秋の池面の真つ平 2013.10.08 00:07