夏杉の斧鉞を知らず火を知らず 

蟻の列黒のベンツを出て西へ 

根底に蝉のこゑあり青銅忌 

放屁して寝間の薮蚊を驚かす 

列島の縁舐めて夜の野分過ぐ 

ぢりぢりと峰を押しやる青田かな 




『雲母』編集同人のひとりに大井雅人さんがおられました。平成四年、『雲母』終刊の直前に俳誌『柚』を創刊され『雲母』から離れられました。その作品は一般的な雲母調とは異なるものもありましたが詩精神は雲母そのものでした。

三十代静止の貨車の爽涼と

秋風や誰も欠けざることが家

梅は一人か四五人で見る花か

能登は海へ突き出す腕野分して

梅白く美しき嘘などはなし

など。余人の入り込めない句境は飯田龍太門下生であることを如実に示しています。

『柚』発刊に際し雅人さんより参加を招請されましたが思い留まりました。今では泉下の雅人さんに申し訳なかったと思っています。



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