香手櫛もて薫風髪に梳き込みぬ 一階の酢の香二階の涼気かな また別の顔を鏡に五月果つ 身中に睡魔棲みだす夏はじめ 瀬に淵に闇降るを待つ鵜飼待つ 火の粉浴び荒鵜潜るは生きる為 2015.06.04 01:20
星閉ざされし店ばかりなる四温光 春寒く人の肉欲る葬りの炉 花うぐひ水湧く星が宙に浮き 眼閉ぢれば龍太開ければ春の雲 津保川の水の里子の犬ふぐり 山茶花や膨張つづく美濃の山 2015.03.10 07:15
壁千両のまことしやかに人迎ふ 寒の闇壁より剥がれ人となる 寒星のしづかに湧く地鈴鹿とは 耳鳴りの止まず春雪止みし夜も 美濃山塊二月の川を絞りだす 春近きナナハンにやや殺気あり 2015.02.03 04:50
雪裏木曾や雪嶺をもて天支ふ 白布干すわつと冬日の集まり来 酒買ひに出て冬の日に背を射らる 冬日向しりとり遊びパンで果つ 初空や徹頭徹尾諷詠派 とめどなく雪降りとめどなく孤独 2015.01.10 06:50
灯冬ざれの果ての集落そして山 目薬のおほかたこぼれ小春空 秋の灯やペンつぎつぎと文字生みぬ 冬の雨とは音たてぬ雨のこと 熱燗や無しとは云へぬ名誉欲 龍太の地踏みぬ秋冷まとひつく 2014.12.03 07:02
痩木曽川の瀬の石ころの痩せて秋 白菊や死は一瞬に怒り解く 腕に抱く赤子笑むとき爽涼と 霧流る眠れぬままの『歎異抄』 冬が来る豹が大地を踏むやうに のっぽビル痩せビル太っちょビル小春 2014.11.03 07:01