千両のまことしやかに人迎ふ
寒の闇壁より剥がれ人となる
寒星のしづかに湧く地鈴鹿とは
耳鳴りの止まず春雪止みし夜も
美濃山塊二月の川を絞りだす
春近きナナハンにやや殺気あり
若井新一氏(新潟県在住『狩』所属)が句集『雪形』でもって第五十四回俳人協会賞を得た。平成九年には角川俳句賞を受賞しており一見華やかな俳句人生に見受けられる。しかし若井氏の住む地は豪雪で知られた地であり厳しい環境の中で氏は坦々と雪と稲作を詠み続けてきた。
「俳句は布衣の文芸」とは飯田龍太の言葉である。力も手立ても無い人間の文芸であるというのである。俳句はそうであって欲しい。否、そうでなければならない。難しい理論や表現などで固める必要はない。地に足をつけた言葉で述べるのがよい。若井氏の作品は将にこれを実行してきたのである。そうした俳人が友であることを筆者は誇りとしている。
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