うつし世の何掴まんと曼珠沙華
鯖雲の増殖夜となりて止む
駆けて子の三着なりぬ運動会
桔梗一輪褒貶は父になし
銀漢や師の遠しとも近しとも
寝返りし赤子に秋の暮迫る
『雲母』時代の編集同人に河野友人さんがいました。晩年は飯田龍太先生監修によるNHK学園の専任講師として平成十八年五月、亡くなられる二日前まで勤務されていました。
俳句添削指導で私がミスをし受講生からの抗議が届いたことがありました。そのとき友人さんは「青風さん、まず謝ってしまうことですよ」と、受話器を通して独特のやさしい声で諭されました。
『観音の胸』など四冊の句集を残されましたが「囀りはたたかひの声たかまりつ」(平成十年刊『隠れ富士』より)のように、穏やかな表情の中に甲斐の古武士然とした意気と風貌を秘めた人であったと申せます。『雲母』を支えた懐かしい俳人の一人でした。
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