閉ざされし店ばかりなる四温光 

春寒く人の肉欲る葬りの炉 

花うぐひ水湧く星が宙に浮き 

眼閉ぢれば龍太開ければ春の雲 

津保川の水の里子の犬ふぐり 

山茶花や膨張つづく美濃の山 




『雲母昭和年代句集』(昭和四十三年出版)より作家、作品を取り上げてみる。今回は中丸義一。脂粉の香の母と共に生き特異な世界を詠んだ俳人。

「雪の翳のせて娼妓の枕紙」「春泥や老いの無慚に喉の傷」「手鞠唄賽の河原の児も冷えて」「遠花火老妓に浄土ちらちらす」「稲妻に半身覚めて老妓佇つ」「湯ざめして母の化粧の始終視る」「芳一の耳の行方も梅雨の月」など異様な世界。中でも代表句としては「寒き夜の紐を啣へて母振り向く」が挙げられよう。

その晩年は定かではない。十余年ほど前、故金子青銅に届いた葉書に次の一句が記してあったと云う。「寒鯛の根石の重み届きけり」。俳人としての終章の一句であろう。


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