詰髪洗ふひと日の悲喜を流すごと 山々の影引き連れて夏日去る 油照り喉に詰まりし売り言葉 蜻蛉飛ぶあたかも意志の飛ぶごとく 秋めくや百の田を過ぐ雲の影 秋真昼香車打たれし角の前 2016.09.30 09:40
虚眼開けば誰もが詩人若葉光 十薬と云ふ渾身の花十字 更地まだ売れず人来ず五月過ぐ 梅雨寒し年譜は辛き日々記さず 土降るに似たり虚偽とか虚栄とか 春の鳶フォッサマグナと謂ふ亀裂 2016.06.02 22:25
紺喩ふれば紙の表裏ぞ去年今年 古日記果つ褒貶も多事もなく イヤホンはカーペンターズ冬深む 一月の雪峰紺に漂へり 枯れ尽くす山へこゑあげ一寒村 冬の鹿ドドと天地を驚かす 年新たジャズの後にはラヴソング 2016.01.01 01:20
鎖口開けば愚痴や閉ぢれば白き息 富家貧家隣りて冬の日を浴びぬ 選ぶなら運より才気木の葉髪 山麓の灯の鎖を為して十二月 ふと睡魔憑く枯園のベンチかな 湯豆腐や多弁の友をもてあます 2015.12.02 04:55
列黄鶺鴒見しをひと日の始めとす 高速の車列の尽きず鵙日和 稲雀一羽降りればみな降りぬ 木曾谷の底の集落花八ツ手 読まぬ家書増え十月も済みにけり 冬に入る中耳に蝉を棲まはせて 2015.11.04 03:45
長身に触れて去りゆく風を秋と云ふ 着替えても流星はまだ胸にあり 夜の長し父のとくとく諭すごと 妻と来て二百二十日の湖の風 群れ咲くは排撃の意思曼珠沙華 注射打つ一瞬長し九月の陽 2015.09.30 21:15